脱髄疾患

 神経線維には、ちょうどビニールを巻いた電線のように、神経細胞の長い突起である軸索をしんにして、それを髄鞘という管状のさやが取り巻いているものがあります。 

 脱髄疾患というのは、ふつう軸索はおかされずに残り、髄鞘が脱落する病気のことを指します。

 病気が重く、激しいときには、軸索もおかされていきますが、あくまでも、髄鞘がおかされることが、この病気の特徴です。脱髄疾患のなかには、多発性硬化症、デビック病、急性散在性脊髄炎、汎発性硬化症などの、いろいろな病気が含まれます。

 ● 多発性硬化症
 脱髄する病巣が、大脳および小脳、脳幹、視束、せき髄などに散在してできる病気です。病巣の場所によって症状は異なりますが、病巣が多発性のために、いろいろな症状があらわれます。病巣は同時にできるわけではなく、次々とできます。

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 また、脱髄が起こっても軸索が保たれていることから、一度あらわれた症状が消えて病気が軽快することもあるのですが、次の病巣が新しくできると、再び悪化するという経過をとって、全体としては、しだいに悪くなる場合が多いようです。しかも軽快したまま何年間も悪化しないこともあります。

 ● 原因
 多発性硬化症の原因は、まだよく分かっていませんが、アレルギーによって起こると考えられています。
 
 発病の誘因としては、外傷、妊娠、出産、感染、その他外部の影響、精神的ショックなどがあります。
 寒い地方に多いのですが、寒さが発病の誘因となるかどうかは不明です。

 ● 症状と経過
 初発症状は、それまで健康であったのに急に視力が落ちたり、手や足がまひしたり、複視(ものが二重に見える)が起こったりすることです。初発症状はなおりやすく、時には、わずかな時間だけ症状が出て、全治したように見えることもあります。

 よく起こる症状は、運動まひ、膀胱直腸障害、視力障害、異常覚、痛み、震顫(震え)、運動失調、言語障害などがあります。また、兆候としては、眼兆候(球後視束炎、眼筋まひ、眼球の浸蘯など)、反射異常、運動まひ、知覚異常、言語障害、精神障害などが多くみられます。

 髄液の検査では、金の溶けている液を加えると金の粒子が増大して色が変わってくる金膠質反応陽性、ガンマグロブリン増加が、重要な所見だそうです。

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 経過は、
 ①症状の悪化と軽快を繰り返すもの
 ②慢性に進行するもの
 ③急性経過をとるもの
 ④症状の長期間変化しないもの
などがあります。①の経過をとるものが、全体の3分の2ぐらいを占めていて、次に②が30%ぐらい、③と④はごく少数です。

 ● デビック病
 デビック病は、多発性硬化症と同じ種類の病気と考えられています。年齢的には関係なく起こり、子供に比較的多くみられます。

 この病気は、頭痛、眼窩痛、発熱などで急激に始まり、相次いで著しい両眼視力障害と横断性脊髄炎は、ふつう下半身まひと、膀胱直腸障害を伴います。

 欧米諸国では、デビック病は多発性硬化症よりはるかにまれな病気とされていますが、日本では比較的多いといわれています。もっとも、多発性硬化症とデビット病は、前述したように、同じ病気と考える医師が多く、実際に、そのどちらとも言えないような中間型の症状を見せるものもあるそうで、両方の病気の頻度の差は、あまり問題にならないとも考えられています。

 どちらかというと、多発性硬化症よりも回復しにくい病気ですが、いったん軽快すれば、再発することは少なく、この意味では経過はよいといえます。治療の方法は、多発性硬化症と同じで、特に急性期には、なるべく早く副腎皮膚ホルモンを用いることが必要です。

 ● 急性散在性脳脊髄炎
 原因によって次の4つに分けられます。

①子供の場合は、感染性発疹性疾患、たとえば、はしか、風疹、しょうこう熱、水疱瘡、痘瘡などの病気のあとに続いて起こるもの。
②一般に、ごく軽い感染状態、たとえば、インフルエンザ、風邪、肺炎などのあとに続いて起こるもの。
③種痘、狂犬病、インフルエンザ、日本脳炎などの予防接種に続いて起こるもの。
④大部分は成人に起こり、特別の病気との関係が明らかでないもの。

 しかし、いずれの場合でも、病気としては一つの同じものとされています。すなわち、原因となった病気の直接の関係はなく、アレルギーがすべてに共通の原因と考えられています。

 症状は、感染症や予防接種のあとに、一定の潜伏期間をおいて急激にあらわれます。おもなものは頭痛、発熱、意識障害、けいれん、髄膜炎の症状などで、そのほかいろいろな神経症状を示します。しかし、はじめの症状が急で、重いわりに、よく回復するそうです。

 原因が不明で発病するものは、症状その他から見て、症状のあるものと同一の病気だと考えられますが、これはまた、多発性硬化症やデビック病とも関連する病気とされています。原因のあるものはもちろん、原因のわからないものでも、再発することはほとんどありません。

 ● 汎発性硬化症
 子どもに多くみられ、大脳半球に広い範囲で脱髄巣ができる病気です。単発性に起こって炎症を伴うものと、同一家族に多く起こって炎症の認められないものとがあり、前者はシルダー病とも呼ばれ、多発性硬化症との関係もあるようですが、後者は全く別の病気です。

 いずれも症状は、視力障害、知能低下、けい性まひが中心で、そのほかに、けいれん、不随意運動、眼振、眼筋まひ、聴力障害などもみられます。治療法は今のところありませんが、幸いごくまれな病気です。

 ● けい性脊髄まひ
 まれな病気で、多くは3~15歳に発病しますが、中年に発病する場合もあります。家族性に起こるのがふつうですので、中年以降に発病し、家族性でない場合は、ほかの病気でないかをじゅうぶんに調べる必要があります。

 最初の症状は、上肢の脱力感と強直感(筋肉がこわばる感じ)で、歩行は遅く、けい性となります。病状が進むと、内反足や内反尖足なども起こります。上肢もしだいにけい性となり、深部反射亢進、病的反射出現などがみられますが、知的障害はみられません。

 経過は良好ですが緩慢であり、長く日常生活ができます。治療は筋弛緩剤を用いると、ある程度軽快するそうです。下肢の変形に対しては、整形外科的治療が有効のようです。